「ビルド待ち、長くない?」——TypeScriptで開発していると、誰でも一度は感じるあのストレスですよね。とくに大規模プロジェクトになると、型チェックだけで1分以上かかることも珍しくありません。
この記事は、TypeScriptのビルド時間に不満を感じている人、AIコーディングツールを使った効率的な開発に興味がある人に向けて書いています。読み終わる頃には、tsgoを自分のプロジェクトで試す手順と、Claude Codeと組み合わせた「型エラー即修正」の自動化ワークフローがイメージできるはずです。
僕は福祉事業のIT全般を担当するCTOをやりながら、フリーランスでAI×SaaS開発にも携わっています。TypeScript + npm workspacesのモノレポ構成で24時間動くAIエージェントシステムを運用していて、ビルド時間の重要性は日々肌で感じています。
TypeScript 7.0(tsgo)とは?— Goで書き直された理由
まず「tsgoって何?」というところから整理しますね。TypeScript 7.0に搭載されるtsgoは、MicrosoftがTypeScriptコンパイラをGo言語で完全に書き直したネイティブコンパイラです。
「え、TypeScriptのコンパイラってJavaScriptで書かれてたの?」と思った方、そのとおりです。従来のtscはJavaScript(正確にはTypeScript自身)で実装されていました。つまり、Node.jsの上で動いていたんですね。
これ、イメージとしては「翻訳作業を、翻訳が必要な人自身がやっている」みたいな状態です。動くには動くんですが、どうしてもオーバーヘッドが大きくなります。
Goで書き直すことで得られるメリットは大きく3つあります。
- ガベージコレクションの効率化: Goのランタイムが持つ高効率なGCにより、メモリ管理のオーバーヘッドが激減します
- goroutinesによる並列処理: 共有メモリベースの並列処理で、マルチコアCPUの性能をフルに引き出せます
- ネイティブバイナリ: Node.jsを経由しないので、起動もチェックも圧倒的に速いです
ちなみにTypeScript 6.0が「最後のJavaScriptベースのメジャーリリース」になります。6.0でブリッジリリースを挟んで、7.0でネイティブコンパイラに完全移行するロードマップが公開されています。2026年前半の正式リリースに向けて、いま最終段階に入っているところです。
互換性も心配無用です。20,000件のコンパイラテストケースのうち、差異はわずか74件。99.6%の互換性が確認済みです。既存のTypeScriptプロジェクトは、ほぼそのまま動くと思って大丈夫ですよ。
実測データで見るtsgoの威力 — 10倍高速化は誇張じゃなかった
「10倍速い」と聞くと、正直マーケティング的な誇張を疑いますよね。僕もそうでした。でも、実際のベンチマークデータを見ると、本当に桁が変わっています。
Microsoftが公開している主要プロジェクトのビルド時間を見てください。
- VS Code(150万行): tsc 89.11秒 → tsgo 8.74秒(10.2倍高速化)
- Sentry: tsc 133.08秒 → tsgo 16.25秒(8.19倍高速化)
- TypeORM: tsc 15.80秒 → tsgo 1.06秒(9.88倍高速化)
- Playwright: tsc 9.30秒 → tsgo 1.24秒(7.51倍高速化)
VS Codeの150万行が89秒→8.7秒ですよ。コーヒーを取りに行く間に終わっていた型チェックが、Enterを押した瞬間に終わるようになるレベルです。
もっと身近な規模でも効果は明確です。700行程度のECサイトコードだと、型チェック時間が0.10秒→0.003秒(33.3倍高速化)。メモリ使用量も68,645K→23,733K(約57%削減)。小規模プロジェクトでも恩恵があるのがうれしいですよね。
僕の環境はMac mini M4 Pro(24GB)なんですが、メモリ57%削減は特に大きいです。24時間AIエージェントを稼働させながら開発もしているので、メモリは常にカツカツ。tsgoに切り替えるだけで、ビルド中のメモリプレッシャーがかなり楽になります。
エディタの言語サービス(VSCodeでリアルタイムに型エラーを表示してくれるやつ)も約8倍高速化されます。つまり、コードを書いている最中の赤波線の表示も速くなるということ。これは体感に直結する改善です。
今すぐ試せる!tsgoのセットアップ手順
tsgoは@typescript/native-previewとしてすでに公開されていて、今日から試せます。セットアップは驚くほど簡単です。
インストール
npm install -D @typescript/native-preview
これだけです。既存のTypeScriptプロジェクトにdevDependencyとして追加するだけ。
型チェックを実行する
npx tsgo --noEmit
従来のnpx tsc --noEmitと同じ感覚で使えます。tsconfig.jsonもそのまま読み込んでくれるので、設定変更は不要です。
ベンチマークを計測する
npx tsgo -p . --extendedDiagnostics
--extendedDiagnosticsをつけると、チェック時間・メモリ使用量・ファイル数などの詳細データが出力されます。従来のtscと比較するなら、こんな感じでやるとわかりやすいです。
# 従来のtscで計測
npx tsc --noEmit --extendedDiagnostics
# tsgoで計測
npx tsgo --noEmit --extendedDiagnostics
自分のプロジェクトで実際にどれくらい速くなるか、数字で確認できるのが良いですよね。
package.jsonのスクリプトを置き換える
日常的に使うなら、package.jsonのscriptsを書き換えるのがおすすめです。
{
"scripts": {
"typecheck": "tsgo --noEmit",
"build": "tsgo -b tsconfig.build.json"
}
}
tscからtsgoへの置き換えはdrop-in(差し替えるだけ)で完了します。プロジェクト参照を使ったモノレポ構成でもtsgo -b(ビルドモード)が対応済みなので、安心してください。
注意点
まだプレビュー段階なので、いくつか知っておくべきことがあります。
- 一部のエッジケースで既存のtscと挙動が異なる可能性があります(74件の差異)
- プラグインやカスタムトランスフォーマーを使っている場合は要検証です
- Angular / NestJSなど独自のコンパイルパイプラインを持つフレームワークは、対応状況を確認してから導入するのが安全です
まずはCIの型チェックステップだけtsgoに切り替えてみる、という段階的な導入がリスクが低くておすすめですよ。
Claude Codeとtsgoを組み合わせた次世代開発ワークフロー
ここからが本題です。tsgoの速さは単体でも十分うれしいんですが、Claude Codeと組み合わせたときに真価を発揮します。
Claude Codeというのは、ターミナル上で動くAIコーディングアシスタントです。2026年2月時点で開発者の84%がAIツールを使用していて、全コードの41%がAI生成というデータもあります。その中でもClaude Codeはターミナルネイティブな操作性が特徴です。
「型エラー即修正」の自動化ループ
従来のtscだと、型チェックに数十秒かかっていました。Claude Codeに「型エラーを修正して」と指示しても、毎回数十秒の待ち時間が発生して、修正→確認のループが遅いんですよね。
tsgoなら型チェックが一瞬で終わるので、このループが劇的に速くなります。
# Claude Codeのフック設定(.claude/settings.json)
{
"hooks": {
"PostToolUse": [
{
"matcher": "Edit|Write",
"command": "npx tsgo --noEmit 2>&1 | head -20 || true"
}
]
}
}
これは「Claude Codeがファイルを編集するたびに、自動でtsgoの型チェックを走らせる」設定です。tsgoなら一瞬で結果が返ってくるので、AIが書いたコードの型エラーを即座にフィードバックできます。従来のtscでこれをやると待ち時間がストレスでしたが、tsgoなら実用的です。
CLAUDE.mdで開発ルールを蓄積する
Claude Codeにはプロジェクトのルールを記述するCLAUDE.mdという仕組みがあります。ここにtsgoの設定やプロジェクト固有のルールを書いておくと、AIが文脈を理解した上でコードを生成してくれます。
# CLAUDE.md の構成例
## Tech Stack
- TypeScript strict mode(tsgo使用)
- React + Next.js
- npm workspaces(モノレポ)
## Commands
- 型チェック: npx tsgo --noEmit
- テスト: npm test
- ビルド: npm run build
## Rules
- 関数にはJSDocを必ず付ける
- エラーハンドリングは try/catch + ログ出力
Claude Codeの開発者であるBoris Chernyさんは、CLAUDE.mdに約2,500トークン分の知識を蓄積していて、適切なコンテキスト設定によりタスク完了速度が55%向上したと報告しています。
さらに彼は5つの並列ローカルインスタンスと5〜10のリモートセッションを同時に運用するスタイルで開発していて、各セッションを別のgitブランチで管理しているそうです。tsgoの高速化は、こうした並列開発スタイルとの相性が抜群です。1セッションごとにビルドが走っても、待ち時間がほぼゼロですからね。
検証ループで品質を担保する
AIが生成したコードをそのまま使うのは危険です。実際、METR(AIの能力評価を行う研究機関)の研究では、AIツールを使うと客観テストで19%遅くなるケースもあったという報告があります。大事なのは「AIに書かせて終わり」ではなく、検証ループを回すことです。
tsgo + Claude Codeの組み合わせなら、この検証ループが高速に回ります。
- Claude Codeにコードを生成させる
- tsgoで型チェック(一瞬)
- 型エラーがあればClaude Codeが即修正
- テストを実行して動作確認
このサイクルを1回あたり数秒で回せるのが、tsgoの速さがもたらす最大の恩恵です。検証ループの導入で成果物の品質が2〜3倍向上するというデータもあります。速さは品質にもつながるんですよね。
移行ロードマップと押さえておくべきポイント
最後に、tsgoへの移行を考えるときに知っておくべきことをまとめます。
移行の3ステップ
- まず計測する: 現在のtscのビルド時間を
--extendedDiagnosticsで記録しておきましょう - CIから導入する: ローカル環境はtscのまま、CIの型チェックステップだけtsgoに切り替えて様子を見ます
- ローカルにも展開する: CIで問題がなければ、package.jsonのscriptsをtsgoに書き換えます
フレームワーク別の注意点
React / Next.js / Vite系のプロジェクトは、比較的スムーズに移行できるはずです。型チェック部分だけの置き換えなので、バンドラーやランタイムには影響しません。
AngularやNestJSのように独自のコンパイルパイプラインを持つフレームワークは、各プロジェクトの公式対応を待つのが安全です。特にAngularのAOTコンパイラは内部でtscのAPIを直接呼んでいるケースがあるので、tsgoへの置き換えがそのままでは動かない可能性があります。
tsgoの今後
--incremental(差分ビルド)、プロジェクト参照、--buildモードはすでに移植済みです。言語サービス(エディタ統合)の移植も進んでいて、VSCodeでtsgoベースのリアルタイム型チェックが使える日も近いでしょう。
正式リリースは2026年前半の予定。いま@typescript/native-previewで試しておけば、正式リリース時にスムーズに移行できますよ。
やらないと損する最悪の未来
tsgoの存在を知らないまま、従来のtscでビルドし続けるとどうなるか。プロジェクトが大きくなるにつれてビルド時間は膨らみ、CIの待ち時間も伸びていきます。1日に何十回もビルドする開発者にとって、1回あたり数十秒の差は、1週間で数時間の差になります。
さらに、AIコーディングツールとの組み合わせが当たり前になる2026年以降、ビルドの遅さは「AIの足を引っ張るボトルネック」になります。AIがコードを提案→型チェック→修正のループが回るスピードが、そのままチームの生産性に直結する時代です。ツールの選択を後回しにすることが、じわじわと競争力を削っていく可能性がありますよ。
この記事を書いている理由
僕自身、Mac mini M4 Pro(24GB)で24時間AIエージェントシステムを動かしながら開発しています。TypeScriptのモノレポ構成でビルドするたびに、メモリとCPUがガッと持っていかれるあの感覚は、何度味わっても慣れません。
Ghostty + tmux + Claude Codeをメイン開発環境にして、CLAUDE.mdにドメイン別のルールファイルを配置したり、カスタムスキルを自作したりと、まさにBoris Chernyさんのワークフローと同じようなことを日常的にやっています。だからこそ、tsgoの「型チェックが一瞬で終わる」という改善がどれだけインパクトがあるか、身体でわかるんですよね。
SES時代にスキルミスマッチを経験して、フリーランスとして独立して、CTOになって——そのキャリアを通じて「正しいツール選択が生産性を劇的に変える」ということを何度も実感してきました。tsgoとClaude Codeの組み合わせは、まさにそういう「知っているかどうかで差がつく」ツール選択だと思っています。だから、いま伝えたいんです。
まとめ — 今日からできるアクション
TypeScript 7.0(tsgo)は、ビルド速度を7〜10倍に高速化するだけでなく、Claude Codeと組み合わせることでAI駆動の開発ワークフローを一段上のレベルに引き上げてくれます。
- 今すぐ:
npm install -D @typescript/native-previewで試してみる - 今週中: 自分のプロジェクトで
--extendedDiagnosticsのベンチマークを取る - 今月中: CIの型チェックをtsgoに切り替えてみる
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